
会社買収の会計処理は、スキームの違い(株式譲渡か事業譲渡か)と、見るべき会計のレイヤー(個別会計・連結会計・税務会計)を分けて理解すると整理しやすくなります。
一方で、取得資産・負債の時価評価、のれんの計上、税務上の調整勘定など、実務では論点が同時多発的に現れます。
本記事では、企業会計基準第12号「企業結合に関する会計基準」を土台に、2026年時点で一般に共有されている実務ポイント(IFRS移行の増加や減損テストの厳格化傾向、事業譲渡の税務調整勘定への注目など)も踏まえつつ、迷いやすいポイントを順序立てて解説します。
会社買収の会計処理は「個別・連結・税務」を分けるのが要点です

会社買収(M&A)の会計処理は、個別会計・連結会計・税務会計の3つに分けて考えるのが基本です。
企業会計基準(またはIFRS)に従い、買い手側では取得資産・負債の認識や、取得対価と時価純資産の差額としてのれんを扱います。
売り手側では、株式譲渡なら株式の譲渡損益、事業譲渡なら譲渡対象資産・負債の除却と譲渡損益を処理します。
また、税務会計は会計処理と一致しない場面があり、特に事業譲渡では税務調整勘定(資産調整勘定・差額負債調整勘定)が論点になりやすいとされています。
スキームと会計区分で論点が変わる理由

まずは「株式譲渡」と「事業譲渡」の違いを押さえます
M&Aの代表的なスキームとして、株式譲渡と事業譲渡が挙げられます。
株式譲渡は「株主が入れ替わる」取引です
株式譲渡は、対象会社の株主が変わる取引です。
このため、対象会社そのものの資産・負債が直接売買されるわけではありません。
個別会計では、買い手側は取得対価で「関係会社株式」等を計上し、売り手側は保有株式の簿価との差額を譲渡損益として認識するのが基本とされています。
事業譲渡は「資産・負債を売買する」取引です
事業譲渡は、事業を構成する資産・負債(契約、在庫、設備など)を移転する取引であり、資産売買に準ずる整理がされます。
買い手側は取得した資産・負債を原則として時価で計上し、売り手側は譲渡対象資産・負債を除却して譲渡損益を計上します。
株式譲渡と比べて、対象範囲の特定や資産ごとの評価、税務調整の検討が増える傾向があります。
個別会計・連結会計・税務会計で「見ているもの」が違います
個別会計は「会社単体」の記録です
個別会計は、会社単体の財務諸表のための処理です。
株式譲渡では、買い手は株式を取得原価で計上し、売り手は株式の譲渡損益を認識します。
事業譲渡では、買い手は取得資産・負債を計上し、売り手は譲渡資産・負債を除却する形になります。
連結会計は「グループ全体」を一つの会社のように見ます
連結会計では、子会社化した場合に、取得企業(子会社)の資産・負債をグループに取り込みます。
この際、親会社が持つ「子会社株式」は連結上消去され、子会社の資産・負債を時価評価した純資産を基礎に処理するのが基本とされています。
例えば、取得した会社の資産が150、負債が70であれば、時価純資産は80として整理されます。
税務会計は「課税所得」を計算するためのルールです
税務会計は、会計上の利益ではなく課税所得を適切に計算するための枠組みです。
会計上の帳簿価額と税務上の簿価が一致しないことがあるため、M&Aでは税務調整が発生しやすいと考えられます。
特に事業譲渡で、買収価額が純資産価額を上回る場合、税務上は資産調整勘定の計上が論点になるとされています。
のれんは「取得対価と時価純資産の差額」です
買収の会計処理で頻出するのが、のれんです。
のれんは一般に、取得価額-取得した時価純資産で算定され、買収で支払ったプレミアムのような無形の価値を表すものと説明されます。
会計上の扱いとして、のれんは償却せず減損テストを行う整理が語られることが多い一方、日本基準では償却年数の上限として20年以内とされる運用が知られています。
また、税務上は償却が認められ、一般に15年償却が論点として挙げられます。
2026年時点では、IFRS移行企業の増加に伴い、のれんの減損テストが厳格化傾向にある点が注目されているようです。
仕訳と数値で理解する会社買収の会計処理

例1:株式譲渡(個別会計)の基本イメージ
株式譲渡では、買い手側は取得対価で株式を計上し、売り手側は簿価との差額を譲渡損益として認識するのが基本です。
買い手側(個別)は、概ね次のような形になります。
- 借方:関係会社株式(取得対価)
- 貸方:現金預金等(支払対価)
売り手側(個別)は、概ね次のような考え方です。
- 譲渡対価-保有株式の簿価=譲渡損益
株式譲渡は「対象会社の資産・負債を直接動かさない」ため、対象会社側の個別会計の仕訳は通常発生しない点が、事業譲渡との大きな違いとされています。
例2:子会社化した場合(連結会計)の基本イメージ
連結会計では、子会社の資産・負債を取り込み、親会社の子会社株式を消去します。
このとき、子会社の資産・負債は時価評価され、取得対価との差額としてのれん等が生じる構造になります。
例えば、子会社の時価ベースで資産150、負債70であれば、時価純資産は80です。
取得対価が80を上回る場合、その差額がのれんとして整理されるのが一般的です。
連結は個別と異なり、グループ内取引の消去や、取得日以後の損益取り込みなど論点が増えるため、早期に会計方針を固めることが重要と考えられます。
例3:事業譲渡(買い手側)の仕訳イメージ
事業譲渡では、取得した資産・負債を時価で計上し、取得対価との差額としてのれんが発生し得ます。
リサーチ結果では、例えば時価総額496,400千円を支払うケースで、借方に資産(時価)およびのれん、貸方に現金を計上する仕訳例が共有されています。
実務では、取得資産・負債の内訳(棚卸資産、固定資産、引当金、リース等)を洗い出し、時価評価の根拠を残すことが監査対応上も重要になりやすいと思われます。
例4:事業譲渡(売り手側)の損益認識イメージ
売り手側は、譲渡対象となる資産・負債を除却し、譲渡対価との差額を譲渡損益として認識します。
株式譲渡と異なり、売り手の財務諸表上で資産・負債が動くため、譲渡対象の範囲と簿価の確定が重要です。
また、事業譲渡は連結の取り込みが不要である点も、株式譲渡(子会社化)と比較した特徴として挙げられます。
例5:税務調整勘定が出てくる場面(事業譲渡)
税務会計では、会計上の処理と税務上の取り扱いが一致しないことがあります。
リサーチ結果では、事業譲渡において買収価額が純資産価額を上回る場合に、税務上資産調整勘定を計上する点が注目されています。
この領域は取引スキーム、対価の内訳、引継ぎ資産の評価、契約の移転方法などと相互に関連するため、税理士さん・公認会計士さんと早期に論点整理することが望ましいと考えられます。
会社買収の会計処理で押さえるべき要点
会社買収の会計処理は、次の順番で整理すると理解しやすくなります。
- スキーム(株式譲渡か事業譲渡か)を確定します
- 会計区分(個別・連結・税務)ごとに論点を分解します
- 取得資産・負債の時価評価と、のれんの算定(取得価額-時価純資産)を確認します
- のれんは会計・税務で扱いが異なり得るため、償却・減損・税務償却の前提を揃えます
- 事業譲渡では、税務上の税務調整勘定の要否を検討します
2026年時点では、基礎となる枠組みは企業会計基準第12号「企業結合に関する会計基準」が基盤で、大きな変更はないとされています。
一方で、IFRS移行企業の増加や、のれんの減損テストの厳格化傾向が語られており、実務の運用はより慎重さが求められる可能性があります。
進め方に迷う場合は、論点を「先に」棚卸しするのが安全です
会社買収の会計処理は、契約条件と会計判断が相互に影響しやすい分野です。
そのため、クロージング後に仕訳を組み立てるのではなく、基本合意やDDの段階から、会計・税務の論点を棚卸ししておくことが有効と考えられます。
具体的には、次の観点をチェックリスト化すると進めやすくなります。
- 取引は株式譲渡か事業譲渡か(あるいはその組み合わせか)
- 取得する範囲(資産・負債・契約・従業員)の定義
- 取得対価の内訳(現金、アーンアウト等の条件付対価の有無)
- 時価評価の方法と根拠資料
- のれんの見積りと、将来の減損リスクの見立て
- 税務調整勘定の要否、税務償却の見通し
不確実性が残る場合でも、専門家の間では「前提と判断プロセスを文書化することが重要」と指摘されることが多いです。
会計監査、金融機関対応、社内の意思決定のいずれにおいても、説明可能性を高める効果が期待できます。